振り出しに戻った。
私は一人で計画を遂行する。
あの日から10年間この日を待ちこがれた。
私の人生は早送りだ。
そう、いろんなことを経験するのが誰よりも早かった。
勉強だって、運動だって、仕事だって、
・・・恋だって。
10年前のあの日私は、
生まれて初めて「デート」をした。
その時は思いもしなかったんだ。
それが人生を大きく変えることになるなんて・・・。
10歳の私が初デートから帰ると
玄関にお父さんが立っていた。
ビシッ!!!!!
玄関でお父さんは私を殴りつけた。
「お前も母親に似て最低だ!」
その日から私は外出することを禁じられた。
部屋で静かに過ごす時間は長く孤独。
ある日、ふとお父さんとお母さんが話しているのを聞いてしまった。
「私には私の人生だってあるのよ!」
「じゃあ子供なんか生まなきゃ良いんだ」
あぁ・・・私が家族の心のバランスを崩した。
私は自立しなきゃ。
いつか全てを覆す大きな力を私が持って、
家族を支えていくんだ。
私は静かに決意した。
学校に行くことも許されず、
一年くらい家の中で過ごしたあと、
私は一年遅れで再び学校に通うことになった。
「ここからがお前の人生の再出発だ」
お父さんは言う。
私がその時すでに自ら動くことなく周りの人間を動かす術を
身につけているとも知らずに。
1年ぶりの自由。
私が最初の実験を試みたのは警察の息子。
家に帰って父親に話したくなるような
犯罪予告と予定日の噂をその子に話し、
予告日に警察がいれば成功。
簡単だった。
小学生でも警察を動かせることが実証された。
もっと頭を使えば国中の力を動かせる。
表向きは私は普通の優等生を演じている。
だからお父さんの私への信用は完全に取り戻された。
だが・・
その代わりにお父さんとお母さんとの関係は悪化した。
お父さんはお母さんを家に閉じ込めるようになり、
お母さんは窮屈になりいらいらして、
お父さんへ暴言を吐き捨てる。
お父さんはそれに反応して、お母さんへの暴力をふるうようになった。
お父さんの暴力は日増しに容赦ないものとなるが、
お母さんのお父さんの尊厳をも奪うような言葉の爆弾の威力も半端ではない。
それでも家は何も問題がないように、
外には見せて暮らしている。
仮面家族。
心理を操作して離婚だけはなんとか阻止したが、
お互いの根本的な性格自体は変わることがない。
どちらがいけないわけじゃない。
理由はひとつだけではないからだ。
ただひとついえるのは家族としての
「役割分担」を果たしていないと言うことだ。
家族の役割分担を果たせない。
これは現代に特有の現象だ。
男女の家庭内の役割が明確な家。
それはもはやホームドラマの中だけに過ぎない。
いや、それが成り立っていた時代は確かにあった。
そう、戦前・・・。
戦争は奇しくも国を、家族を一つにした。
だが戦争が終わり、平和ボケした現代人は
自己中心的になった。
自己中心的でなくなるためには共通の目的が必要だ。
目的さえあれば仲の悪い二人が力を合わせることだってある。
だが面倒くさがりの現代人は強制されなければ
自ら目的を掲げることすらしない。
楽な選択肢があれば楽な方を選ぶに決まっているからだ。
ならば戦前のような恐怖による支配下にあったとしたら・・・。
核による恐怖によって、
平和ボケによって愛を忘れた家族が一つになるかも知れない。
2000年、世紀末。
私が「指示」を出した瞬間
地球は核の炎に包まれる
ノストラダムスは一年間違えたようね。
人類は恐怖に怯え、
力を合わせて一つになるでしょう。
本当はこんなことしたくないのよ。
あの日に私がデートさえしなければ、
ここまでする必要はなかったんだもの。
タイムマシンに乗って、
あの日に戻ってやり直せるなら・・・。
タイムマシン・・・
あの男の言っていたことが本当だとしたら・・・?
私としたことが!
あの男は本当にタイムマシンを作っている。
意識的に表情を作っている人間以外は
嘘をついている時に左上を向く。
だがあの男は
「これは君を未来に連れて行く乗り物なんだ」
と言った時に右を見ていた。
感情をモロに表に出しまくっていたあの男が
表情をコントロールしているはずがない。
そしてあの機械のくず。
私が知るどんな科学者の所でも見たことのない実験跡。
あの男は1万人に1人、いや50億人に1人かも知れない。
あの男は未来へ行くつもりのようだけれども、
タイムマシンの出発前に目的時間を10年前にセットすれば
10年前の「あの日」に戻ることができる。
そうしたら全て上手くいく。
私は来た道を戻り、
再び廃墟の扉を開けた。
「ただいま」
メッセージ:
誕生日を祝ってくれた方に心から感謝します。
本当にありがとう!
事態は振り出しへ。
僕は当初の計画通り
「たった一人で」未来へ向かうことになった。
これでいいんだ。
これでいいんだ・・・
これで・・・いい・・?
何だ、これは・・・。
この胸の奥に沸き起こるモヤモヤとした感情は。
僕は本当に未来へ行きたいんだろうか。
そうだ、あの女に会わなければ
こんな迷いは生じなかったはず。
人は何かを一度手に入れてしまうと、
そのうちそれが近くあるのが当たり前になり
それが失われたら何も無かった時よりも寂しくなる。
いやちょっと待てよ・・・
冷静になれ。
そもそも僕はあの女を手に入れてもいないじゃないか。
一言二言会話を交わして、
僕が一方的に妄想しただけじゃないか。
おそろしい。
思考に論理性が欠落し始めている。
これが恋の威力と言うものか。
恋・・・?
何と言うことだ!
僕はあの女に恋をしてしまったというのか!!!
そう考えればこのモヤモヤした感情に説明がつく。
現代にも研究する価値があるものがまだあった。
恋という不可思議な現象を解明しないまま未来へ行ったら、
大きな思い残しになる。
いや・・・
でも恋が心を苦しめるだけのものだったとしたら・・・。
そう、
「あの日」のように・・・。
「どっちにするの?」
10年前のあの日10歳の僕は選択を迫られた。
今思えば子供にさせるような選択じゃないと思うけど、
うちの両親はそんなのおかまいなしだ。
「お母さん」
電子工学の権威で科学研究に明け暮れて家にほとんどいないお父さんより、
いつもそばにいたお母さんを選ぶのは子供心としてはごく自然だったと思う。
今でもお父さんに関しての記憶はほとんどない。
だが、まさに遺伝の力だろう。
お父さんの科学の才能が僕に受け継がれていた。
父がいなくても僕はいつのまにか
科学の発明をするようになり、
天才科学少年と呼ばれるようになっていた。
お母さん、見て。
これ僕が作ったんだ!
お母さんは言う。
「やめてちょうだい、
あの人を思い出すから」
僕が少しでも科学の才能を見せると
お母さんは拒絶反応を示すようになった。
やがてお母さんは無能で平凡な男と再婚する。
学校にも馬鹿しかいない。
僕の周りは馬鹿だらけになった。
もういい、僕は自分自身のために発明する。
差し当たり、NASAの発明オーディションに応募してみた。
審査員特別賞を取った、その少年の名前は「No Name」。
その技術は軍事科学への応用が可能で、
それを悪用しようとする組織から、
作った人物に危険が及ぶ可能性があるからだそうだ。
テレビで放送されている「謎の天才」。
お母さん、あれは僕なんだよ。
僕はすごいことをしたんだよ。
そうさ、僕が褒められたいのは世界の
一流科学者でも軍事組織でもない。
お母さんなんだ。
お母さんに褒められなければ意味がない。
でもお母さんは言う。
「テレビ消してちょうだい、
あの人を思い出すから」
お父さんの才能を受け継いだ天才科学少年。
それが僕なのに・・・
僕の存在は?
どんなにすごいことをしてもお母さんに褒められない。
お母さんは普通の人間が好きで
僕みたいな人間は嫌いなんだ。
あの日、僕はきっと選択を間違えた。
お父さんなら、僕の才能を分かってくれて、
愛してくれただろう。
お母さんへの愛を求めれば求める程、
苦しくなるだけ。
こんなに苦しいなら、
感情なんて・・・
もう殺してしまえばいい。
・・・それがどうだろう。
今、僕は感情に支配されている。
恋とは愛とは違って逆らえない力。
今まで感じたことのない何か。
「誰かとつながりたい」という感情。
もしかして僕は一人で生きるべきではない・・・?
あぁ・・・
あの女性(ひと)にもう一度会いたい。
神になろうとしていた僕から
こんな女々しい感情が沸き起こるなんて。
よし、もしもあの女性(ひと)にもう一度会えたなら、
二人で1000年後の世界へ旅立とう。
・・・でももはやこんな雨の中、
見つけられるわけがないじゃないか。
きっと僕はどうかしてる・・・。
「ガタ」
開いた扉の中に月が
思い焦がれたあの女性(ひと)の影を映し出す。
これは幻か・・・。
「ただいま」
奇跡が起きた。
この男、どうやら
少し長めの妄想状態へ入り込んでいるようね。
男は妄想と未来、女は現実と現在を見る傾向がある。
これを逆だと思っている男は多い。
多分この男も女の子は夢見る夢子ちゃんだと
信じ込んでる口だろう。
あ、目がいろんな方向に動いてる。
右手に工具みたいなものを持っているということは
この男は右利きだとして、
今私から見て左上を見ているということは
まさに「未来」のことを思い浮かべているのね。
おそらく私と付き合うことになった場合のことや、
一緒に過ごす未来のことを想像してるんだわ。
笑えるわね、私のことを何も知らないくせに。
それにしても何なの、この倉庫。
鉄くずのゴミ処理場みたい。
はっきり言って今の所、
冴えないメカオタクにしか見えないけれど、
例外と言うのもありえるから、
もう少し情報を引き出すとするか。
この男が特殊な発明をしていると言う可能性も
ゼロではない。
見た目で判断しない。
それが超心理学の鉄則。
確かに推理も心理学もまずは外見と印象から分析を始める。
だが、人間はそんなに単純ではない。
だからそこから膨大な「前例」に性格や傾向を当てはめて
「あなたは~です、だから~するでしょう」
とより細かくカテゴライズ(分類)してゆくのだ。
でもここで見落としが一つある。
それは天才の存在。
50億人に1人くらいカテゴライズされない人間がいる。
常識の枠を超えた奇跡。
それはカテゴライズの枠に収まらない。
しかしカテゴライザー達は
「こういう人でしょ」と決め付けたがる。
まあほとんどの場合決め付けてそんなに問題ないんだけどね。
だって「自称天才」とか「狂気」なんて
もはやカテゴライズの世界ではステレオタイプ。
思えば、私は出会ったことのない人に
出会いたいのかもしれない。
カテゴライズの引き出しが少なくて整頓されていなかった頃は、
人との出会いの全てが新鮮だった。
「こんな人見たことない」って会う人会う人に思っていた。
だが、知ってしまった。
ほとんど全ての人間が誰かが経験してきた
カテゴライズの引き出しに属する。
あぁ・・・これは人間を超えた何者かの手の中で
歴史を繰り返しているにすぎない。
だから何千年前から分かっているはずの
自己啓発系の啓蒙書がいまだに売れるんだ。
でも諦めない。
目の前にいる人間が、
50億人に1人しか持たないような何かを
持っているかも知れないではないか。
えーと、この鉄くず・・・じゃなくて、
「これはいったい何?」
「君と僕だけの秘密にできる?」
何?
会ったばかりの私に秘密を打ち明けるって言うの?
どれだけ男って警戒心がないのかしら。
もしかして馬鹿?
いや、どの男もそうだった。
とりあえず少し色気をかもし出して、おだてれていれば、
企業秘密や軍事機密や、興味ないけど芸能裏事情を
自ら進んで打ち明けてくる。
上手く引き出せば一国を動かす程の情報が手に入る。
その気になれば
世界のどこにどんな力が働いているかの
情報だって手に入る。
男という生き物は
力を持っていたら使いたくなる生き物。
才能があれば使いたくなる。
大金があれば使いたくなる。
権力があれば使いたくなる。
軍事力を持っていたら使くなる。
核爆弾を持っていたら・・・。
情報を操作して大きな力を自在に使えば、
世界を支配できる。
得てして大きな力は
目立たない場所に隠れている可能性がある。
さぁじゃあ教えなさい。
あなたの力は何なのかしら?
私は作り慣れた「憧れを込めた潤いの上目遣い」で
男を見つめがらうなずいた。
「・・・うん」
「これは君を未来へ連れて行く乗り物なんだ」
あぁ・・・。
少しでも買いかぶった私が馬鹿だった。
こいつもよくいる「あっち系」だったか。
「馬鹿みたい」
私は扉を開けて倉庫を後にした。
この大事な時に、
人生最大の難関が待っていようとは・・・。
僕は外界との接触頻度が極端に低く、
3次元の女性としゃべったことがほとんどない。
だからこんな時どうしたらいいか分からない。
落ち着け。
大丈夫・・・
冷静な態度を取り続けてさえいれば
動揺しているのがバレることは無いだろう。
うぅ・・・
しかし視線をどこに持っていけば
いいのかすら分からない。
そう、完璧な計算のはず
・・・だった。
この女が現れなければ、
今頃、僕は現代にさよならを告げて、
僕以外の全てが未来へ早送りされるのを待っているところだった。
未来でたった一人の現代人になるために・・・。
たった一人・・・
はっ!
どうして一人ということにとらわれていたんだろう。
二人でもいいじゃないか!
この女と僕で未来へ行き、
二人は未来のアダムとイブとなるんだ。
この女はまさに神のために用意された女神。
いや・・・待てよ。
この女がそれを承諾するだろうか。
まずこの女は自分の彼女にすらなってないじゃないか。
それどころか僕たちはお互いのことをまだ何も知らない。
女性とまともに話したことのない僕が
この女と楽しい会話を成立させ、それを恋に発展させ、
更に二人だけの未来への旅立ちを促すなんて、
ほぼ不可能に近いんじゃないだろうか?
だとしたらとりあえず適当な理由をつけて
この女をタイムマシンに入れて、
僕も一緒に乗って、
世界が未来になってしまってから、
実はもう戻れませんよ~と打ち明けるか。
未来人の中で二人しか現代人がいないと言う事実から、
まるでなれない海外暮らしの中で日本人を見ると安心するように、
親近感を覚え、そのうち情も芽生えて女は僕に恋する・・・。
いや、それじゃあ未来永劫恨まれることになりそうだ。
女の恨みは恐ろしい。
順序を踏まないとそのつけが回ってくることは歴史が証明している。
まずはタイムマシンの存在を打ち明ける必要がある。
だが20歳前後の女性がそんな
超科学の存在をいきなり信じるはずがない。
最低限の知識の共有が必要だ。
タイムワープの基礎知識を説明しておくか。
いや、そんなのただ単に
自分は博識ですよ~って自慢しているみたいじゃないか。
自慢なんて、才能がない奴が自分を認めてもらいたくてする
最も恥ずかしい行為だ。
許せん、僕がそんなことをするのは・・・!
そうそう、ストレートにタイムマシン作ったんだよって言えばいい。
・・・って言って平気なのか!?
それはとんでもない秘密を打ち明けることになるのでは。
まずい・・・
混乱して正常な判断が下せなくなっている。
「これは何?」
女の方から聞いてきた。
・・・ならばそれに答えるのが運命。
でもその答えを聞いたら、
君はもう普通の世界には戻れないよ。
だって世界に二人だけの秘密を
共有することになるんだから・・・。
「君と僕だけの秘密にできる?」
「・・・うん」
小学校の卒業式の時に
結局未遂に終わった告白よりも緊張する。
・・・でももう後には戻れない。
よし!言うぞ。
「これは君を未来へ連れて行く乗り物なんだ」
・・・。
・・・あれ??
「馬鹿みたい」
女は扉を開けて外に出て行った。
・・・よく考えたら当然だよね。
やだ、雨が降ってきた。
傘持ってきてないじゃない。
でも関係ない。
今日、私は世界を変える。
私は17歳の時に家を出た。
受験勉強に集中したいからなんて理由が
私の性格からしてありえない
ってことにも気づかないくらい両親は私に興味がない。
逆に絶えず親の顔色を伺って生きてきた私には
いつのまにか特殊な能力が備わっていた。
「人の心を読むこと」
と言っても第六感的なものでも占いでもない。
瞬時の観察に基づいて
「その人物の傾向」をほぼ正確に把握することができるのだ。
だから私は人をコントロールできる。
さまざまな「力」を持つ人間の心を支配すれば、
その「力」を私の思うがままに使うことができる。
そもそも「力」なんて欲しくなかった。
普通の穏やかな暮らしがそこにあればよかった。
でも私にはそれがなかった。
日に日に増す父の母への暴力。
それを助長するような母の暴言。
この二人が愛し合って私が生まれたわけではないのか。
この二人は大人になってもどこまでも自分、自分。
人間は弱い生き物だってよく聞く台詞。
足ることを知らずに自分の欲望に忠実で、
それでいて人のことは責めたてるのが人間らしさ?
「弱いままでいい」なんてことを肯定したら
永遠に平和な世界は訪れない。
だから私が世界を変える。
その決意をして3年。
ようやく計画を実行する日が来た。
それが今日。
この雨は祝福の雨にさえ思える。
でもマズイわね。
服がびしょ濡れで透けてて
これじゃ道歩けないじゃない。
近くで雨宿りできる場所ないかしら。
この薄気味悪い倉庫くらいか・・・。
扉が赤く錆びついてまるで廃墟。
絶対に住みたくない場所ね。
中から音がする。
あら、誰かが中にいるみたいね。
「ドン!ドン!」
・・・。
何?無視?
絶対いるくせに
さっきガシャって音がしたもの。
「ドン!ドン!誰かいますか〜?」
ガラガラと重い扉が開く音。
・・・出てきたのは私と同い年くらいの男子。
「すみません、雨宿りさせてもらえませんか?」
私をじろじろ見てる。
あ、目が泳いでる。
ふふっ・・・ウケるくらい挙動不審。
さては女の子とあまりしゃべったことないな。
まだ情報が少なすぎるのであくまで会って5秒以内の印象としては・・・
外見もまぁ悪くなく、知能はそこそこ高そうだけれども、
外界との接触頻度があまりに低く、
しかも2次元の女性ばかり見慣れているため
リアル女子の前ではどう態度を取ったら良いか分からない。
雰囲気的にマザコンの匂い、まぁこれは経験からの憶測。
・・・ってとこかしら。
男の子はようやく口を開いた。
「どうぞ」
ふふっ顔赤らめちゃってかわいい。
この時私は、
この出会いが未来を変えることになるなんて
思ってもいなかったんだ。
